長崎家庭裁判所 昭和40年(少)1127号 決定 1965年11月30日
少年 S・K(昭二五・四・二七生)
主文
少年を長崎保護観察所の保護観察に付する。
理由
(非行事実)
少年は、昭和四〇年四月○○日午前四時頃、長崎県南高来郡○○村甲○○○○番地の自宅の上り口六畳の間において、かねて酒ぐせの悪い兄S・A(二二年)が、帰宅の遅くなつたことを父S・Uに注意されて立腹し、同人の顔面を殴打しその場に押し倒して首をしめる等の暴行を加え始めたので、父親に助勢しようと自宅便所横にあつた幅三センチ長さ〇・八二メートルの角棒をもつて兄S・Aの後頭部付近を殴打したが、S・Aがその場に倒れながらも反抗しようとする態度に平素からの憎悪と仕返しを恐れる恐怖心が高まりこの際同人を殺害しようと決意し、同じ思いのS・U、同S・T子の両親と共同して、右S・Aの頸部に細紐を巻きつけてこれを強くしめあげ、ついに同日午前四時四〇分頃同人を窒息死するに至らしめたものである。
(適条)
刑法一九九条、六〇条
本件非行の結果は極めて重大であるが、非行に至つた原因を検討すれば、被害者S・Aの日常の行状は極めて悪く、怠惰、金銭浪費、多量の飲酒、特に激情的衝動的な暴行や器物破壊等家庭の恐怖となつていたもので、本件非行については近隣の同情が寄せられていることが窺える。少年においてもこれまでの非行歴は認められず、本件非行の結果の重大性のみを重視する余り収容保護を加えることは当を得ないところである。しかし両親は本事件の被告人として一審の刑事裁判において、いずれも懲役三年六月の実刑判決を受けており(現に控訴中で、かつ保釈中であるけれども)、平素から少年らに対する教育的関心が薄く他に二〇歳の姉がいるのみで、少年らを真に指導監督する者はいないこと、少年の知能はやや低く、学習態度に熱意なく、成績は下位であること、思考に発展性なく、自己中心的で短気、我儘で反抗的欠点があること、また近隣の同情に甘えて、本件非行の重大さに対する反省にやや乏しいところがあること、反面今後本件非行で周囲の目を強く意識し過ぎる場合には不適応行動に出る虞れもあること等、以上の諸事情を考慮して、これからの少年の日常生活の指導監督のため、専門家を付してこれに当らせることが相当である。よつて少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 萩尾孝至)